僕は昔ながらの喫茶店が好きである。
残念ながら今はチェーン店が興隆の時代であり、個人がひっそりと街中で営む喫茶店が減っている。
昔ながらの喫茶店の良いところはタバコが堂々と吸えることである。チェーン店のように店の片隅に追いやられることもない。
僕にとってはコーヒーをちびりちびりと飲みながらタバコを燻らせお気に入りの本を読むことが至福の時である。
この至福の時の舞台設定として最適な場が街の喫茶店なのである。
僕の行きつけの喫茶店は5,6件ほどあるけれども、昔ながらの喫茶店はその内の半分である。最もよく行く喫茶店はかれこれ30年以上前からの付き合いである。
その店はランチメニューも豊富で(値段もお手頃である)、何時間居ても何も言われない。新聞や週刊誌も揃っている。週刊誌やスポーツ新聞を読みたくなったら、ちょくちょくその店へ足を運ぶ。
それと仕事をサボった時の避難場所でもあった。前までの仕事に就いていたときに僕はたまに無性に仕事をサボりたいという衝動に駆られることがあった。仕事をサボって家に居ると母が心配したりあれこれ言ってきたりするので居心地が悪い。そこで、「よーし、今日は仕事をサボるぞ」といった日は一旦仕事に行くふりして家を出て、難波あたりをウロウロしてから行きつけのその喫茶店で過ごすことにする。また、出勤していても午後からサボりたくなった日はその店に直行して帰宅時間まで過ごす。
その行きつけの喫茶店は僕の「居場所」のひとつなのかもしれない。
今はもうなくなってしまったけれども、僕が通っていた高校の近くにあった「K」という喫茶店も思い出に残っている。
その当時付き合っていたガールフレンドと学校帰りに立ち寄ってとりとめのない話を夜遅くまでしていた。どんな内容の話をしていたのか全く覚えていないけれども、その時の胸の高まり、ドキドキ感だけはなんとなく覚えている。「大人の世界」にちょっとだけ足を踏み入れたというワクワク感があった。
土曜日のランチにもよく利用していた。利用客は僕が通っていた高校の生徒だらけ。メニューがリーズナブルでしかも大盛りだったのでとても重宝していたのである。
今は亡きその「K」という喫茶店は間違いなく僕の青春の一コマとなっている。
僕の行きつけの喫茶店の中にはカフェ風の店もある。
僕のくだらないこだわりなのかもしれないが、全国チェーンのカフェは極力利用しないことにしている(例えばSバックスとか)。
僕がよく利用するカフェ風喫茶店はチェーン展開していない(あるいは小規模なチェーン店)ところである。
本当は昔ながらの純喫茶風な喫茶店が良いのだけれども、次善の策としてチェーン展開していないカフェを使っている。「へっ、グローバリズムなんかなんぼのもんじゃい」とささやかな抵抗をしているわけである。
それとチェーン展開しているカフェの雰囲気が何となく肌に合わないのだ。僕が座っている横の席でサラリーマンにノートPCやなんかでパチパチやられたりすると興ざめするのである。まあ、あくまで僕の個人的な感覚なのだけれども。
僕はやはり昔ながらの喫茶店が好きなんだなぁと思う。
僕が「昭和」の人間だからなのか、アナクロ人間だからなのか、自分でもよく分からない。
僕にとって昔ながらの喫茶店は「古き良きもの」の象徴である。
僕もいよいよ老いてきたのだろうか。
でも、この「老い」の感覚は悪いものではない。