若い人たちと話しているとついつい「僕らが若い頃は~」と言ってしまうことがある。僕としては「今どきの若者はなっとらん」とか「僕らが若い頃は良かった」なんて言いたいわけではない。この手の物言いは僕が最も嫌うものである。けれども、つい「昔は~だった」と口をついて出てしまう。これは明らかに「老化現象」である。ちょっとだけ悲しい。
昔のことを懐かしがるのはやむ得ないことである、と僕は思う。
歳を喰ってしまった今となっては若い頃のみずみずしい感性で世の中と向き合っていた頃の自分が愛おしいのである。今よりも未熟で未成熟だった自分が可愛いのである。
世の中がいくら進歩しても(あるいは進歩していると思い込んでも)、世の中には数えきれないほどの矛盾や歪みが現に存在している。この矛盾や歪みを失くすことは自分の力によってはできないし、ある程度はそれらを受け入れて生きていくしかないと諦念するしかない。
世のオッサンたちの多くは現状に耐えきれずにノスタルジーの世界に思いを寄せることによって精神のバランスを取ろうとする。
その典型的なものが「昔は良かった」と過去を美化することである。
僕は今を自分なりに懸命に生きて、その結果として少しでも明るい未来に期待するという生き方をしたいと強く思っている。過去に縛られていては何も生まれないし何も変わらない。
かと言って、ノスタルジーに浸り、「後ろ向き」な思考様式を完全に否定することはできない。
昔は良かったと懐かしがり、今の生活の不満のはけ口にしたい人たちの気持ちも分かるけれども、「昔は良かった」と思考停止する態度はいただけない。
だいたい「昔は良かった」はずはないのである。
生活の豊かさ、便利さを取ってみても明らかに今の方が上回っている。倫理観や道徳観が劣化しているという人が多いが、それはあくまでも印象論でそれを裏付けるエビデンスはない。単に過去を美化しているだけ、という見方もできる。凶悪犯罪や少年犯罪も明らかに昔の方が多いという客観的なデータもある。
そもそも「昔は良かった」の「昔」はいつの頃を指すのか定かでない。人によっては高度経済成長期のことを指すし(この時期を懐かしがる人が多い)、戦前の大正・昭和の時代を指し、極端な場合には明治時代とか江戸時代が良かったと言い出す人もいる。
おそらく、昔の人たちももっと昔の時代を懐かしがったりしていたと思われる。
人はいつの時代も現状に不満を持ち、過ぎ去った日々を過剰に美化し懐かしがり、憂さ晴らしをしていたのである。
僕はみだりに昔の話を持ち出して、過去を美化し、それによって自分を正当化する態度を厳に慎みたいと思っている。
それは僕の美意識であり、何よりオッサンと思われたくないという悪足掻きである。
懐古趣味はほどほどにしておいた方がいい。