少し前、経済格差やワーキングプアが盛んに取り上げられたとき、特にリーマン・ショックの影響で派遣切りが横行したときに派遣会社が諸悪の根源としてやり玉に挙げられたことがある。
低賃金で細切れの雇用契約、寮費や生活必需品等を高額で控除する等散々非難されていた。
資本主義体制、特に新自由主義的な経済システムの矛盾とグローバリズムの流れによる労働者への負の影響という本質的な問題をスルーして派遣業者がスケープゴートにされた感がある。
元々人材派遣業そのものは一部の例外を除いて禁止されていた経緯がある。労働者に対する賃金は「全額を・直接払い」すべきものとされているので、中間業者が「ピンハネ」をする形となる人材派遣業は原則として認められなかったのである。
戦前のタコ部屋と呼ばれた建築現場、遊郭への身売り、前金・支度金名義の前借りを伴う紡績会社の女工等の事例が多数あって、それらは人身売買的性質を有し人権の侵害が甚だしいものだったことを踏まえての人材派遣業に対する強い規制が加えられたのである。
人材派遣業はいわば奴隷的労働に関する負の遺産を背負っているので、何らかの問題が生じたときに矢面に立たされるのである。
僕は人材派遣会社を結構利用していて、時折お世話になっている。
僕のような中年男でしかも専門的技術を持っていない者にとっては人材派遣会社はありがたい存在である。
ただ、個人的な感覚では長期間に渡って派遣会社の紹介によって働くことは結構辛いものがある。一回の契約期間が短くて常に契約満了による失職のプレッシャーがかかる。単純作業的な職種に就くと、自分のキャリア・パス、スキルの面で将来が不安になる。
反面、「つなぎ」的な仕事をしようとすれば派遣会社は有用である。正規雇用として雇われるまで、フリーランスとして一本立ちできるまで、あるいは自分の夢を叶えるまでの「つなぎ」として十分に活用できる。
正社員のパイが減っていく雇用環境では、長期間派遣という形で就労する労働者が増えることが予想される。派遣という雇用形態が持つメリットを活かしつつ労働条件を良くする方向にもっていった方が良いと思う。正社員として働くメリットが少なくなっているし、正社員として働きたくないあるいは正社員としては働けない人たちも多くいるからである。
派遣会社の過当競争、賃金の安売り合戦をなくし一定水準の賃金を確保できるようにする。要するに派遣会社が登録スタッフを「高く売りつける」ことができるようにするのである。また、派遣会社の「ビンハネ」率の公表を義務化し、その率が適正になるように規制する。僕は私的な活動に対する国家権力の介入は極力なくすべきだとの立場だが、派遣会社への規制はやむを得ないと考えている。放置していれば、派遣労働者の処遇が間違いなく劣悪化するのが目に見えているからである。
この国の労働市場では派遣会社はなくてはならないものとなっている。
派遣会社は必要「悪」なのである。多くの労働者にとっては最後の砦のようなものになっている。
「必要悪」が本物の「悪」にならない限り派遣会社は存在意義がある。