正社員といえども安泰ではない、これからは正社員にこだわらずに働き方を変えるべきだ等の物言いがなされるようなって久しい。
高度経済成長の頃の正社員最強伝説は終焉を迎えたかのような錯覚を覚える。
個人レベルで見てみれば正社員という働き方を捨ててフリーランスや起業して活躍している人たちがいる。「成功者」はメディアで取り上げられて、時代の寵児的な扱いをされ、会社に未だにしがみついてる普通の人たちの心をかき乱す。
けれども、正社員としての働き方をしないことでメディアを賑わすということは、そのことがニュースバリューがあるレアケースだということだ。多くの人たちが起業するなりフリーランスとして働いていて、そのことが当たり前であればメディアが取り上げることなんかない。
ということは、未だに正社員としての働き方がスタンダードであり続けているということだ。
例えばフリーターやニートの問題を語る際に、多くの人たちはその解決策として、あるいは「あるべき姿」として会社に正社員として雇われる働き方を設定する。
また、非正規雇用で働く人たちが抱える様々な問題を解決する手段として、いかにして正社員として雇われるかが問われることが多い。確かに非正規雇用で働く人たちのうちの何割かは正社員としての「身分」を求めている。しかし、多くの人たちは別に正社員として働きたいとは思っていない。正社員として働いて得られるものがある代わりに失うものも多くある。その失うものは人それぞれ異なるが、おそらく共通しているのは正社員としての身分を得た代償として、会社に隷属することが耐えられないのである。
正社員に対する幻想は未だに根強く残っている。
「就活」なんてバカ騒ぎは収束する気配がない。最近の新入社員に対する意識調査でも終身雇用を望む人の割合が高まっている。
正社員として会社に勤めないと、人生が詰んでしまうと感じる人も多いらしい。
僕は正社員として働くことが時代遅れだとかつまらない安定志向だといった類の無責任な言説が嫌いである。
可能ならば正社員として勤めた方が良い。
ただ、正社員としての働き方がデフォルトだとしたり、社会のシステムを正社員を基準に決めすぎていることを変えていかないと色々と齟齬が生じてくると思っているだけだ。
人それぞれが自由に自分の働き方を決めることができて、どのような働き方を選択しても社会的な不利を受けないようになればよいと思っているだけなのである。
正社員としての働き方がスタンダードになったのはたかだかこの数十年の話である。
「正社員幻想」のある部分は壊さなければならない。そのある部分とは「安定」という幻想、人生が決まるという錯覚等である。
正社員であることが「身分」的なものではなく、ただの契約関係上の「立場」になれば、正社員幻想も薄まるのかもしれない。