読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

希望の舎―キボウノイエ―

漂泊を続ける民が綴るブログ。ちょっとナナメからの視点で語ります。これからの働き方・中世史・昭和前期の軍の組織論・労働問題・貧困問題・教育問題などに興味があるので、それらの話題が中心になります。

なぜ生活保護の現場がうまく回らないのかという件

生活保護行政の第一線に立つケースワーカーの仕事はハードである。

僕がある政令指定都市の職員をしていたとき、同期生である何人かはケースワーカーの仕事に就いていて、その仕事の精神的負荷がいかに高いかを見聞きした。

僕はある区役所の国民健康保険を担当する課に配属されたのだけれども、そこでさえも日々の業務は精神的に疲弊するものだった。生活保護行政を担うケースワーカーの仕事は僕のいた国保の比ではない。

 

生活保護の申請をさせない「水際作戦」や強圧的な指導等で悪い評判が立ってばかりのケースワーカーだが、なぜ現場がスムーズにいかないのか、元公務員の視点で以下に述べていきたい。

 

本来はケースワークの仕事は社会福祉に関する専門知識を有する専門職である。大学や専門学校で社会保障制度、社会福祉に関する法令、ケースワークの技法等を学んだ人たちが従事することが望ましい。

僕が採用された市役所では大卒採用の同期生が100人前後いたが、殆どが行政職採用であった。社会福祉職採用は数人程度であった。これらの社会福祉職採用の職員の全員が生活保護を所管する福祉事務所に配属されるわけではない。児童相談所や母子福祉センター等の福祉関連部局に専門職として配属されることが多い。福祉事務所に配属される社会福祉専門職職員はわずかに採用された人たちの内のまた一部である。

実際は福祉事務所に配属されるのは行政職・一般職の職員である。

 

一般的に福祉事務所のケースワーカー社会福祉生活保護に精通し、カウンセリングやケースワーク技法を身に付けた職員であると思われがちだが、そのような職員は一部だけ(各自治体によってその比率は異なる)なのである。

ケースワーカーとして働く職員の多くは、前の職場では例えば住民税の取り立てをしていたとか、住民票を発行していたとかの「お役所的」な仕事をしていて、人事異動で仕方なく福祉事務所に配属されたというケースが多いのである。どの自治体でも福祉事務所は不人気の職場である。福祉専門職ならともかく、一般職採用の職員にとっては「行きたくない」職場である。福祉専門職ではない職員のモチベーションはなかなか上がらない。おそらくは少しでも早く他の部署に異動したいと思っている。そんな中でトラブルが多く、一筋縄ではいかないケースばかりの生活保護行政の現場で格闘するわけである。

 

元々公務員をしている人たちの多くは「自律的」に創造的に働くといったメンタリティを有していない。上から決められたことを決められた通りにつつがなくこなすことを是としている。このことを一概に悪いことだとは言えない。公務員は法令に基づいて決まっていることをその通りに遂行しなければならないのである。

 

自治体の上層部が生活保護費の抑制を指示したとき、「水際作戦」が横行しがちとなる。

これは凡そ次のようなメカニズムによる。

生活困窮者や生活保護受給者に寄り添った支援をしているケースワーカーよりも上からの指示通りに水際作戦を厳格に実行しているケースワーカーの方が人事評価が高くなる。人事評価が良ければ次は良い職場に異動する可能性が高くなる。

また、水際作戦を履行していれば新たな生活保護受給者を出さなくて済み、仕事の量が増えることもない。

水際作戦によって人事考課が良くなり、仕事も増えない、これらは一挙両得となる。

 

また、水際作戦を強いられていない自治体においても以下のようなことが起こり得る。

福祉事務所は不人気部署ゆえに希望する職員が少ない。在籍するケースワーカーにおいても他の部署に異動したいと思っている人も多い。そのためにある職員が熱心にケースワーカーの仕事に取り組むとその部署に留め置かれることになる。他方、不真面目で熱心でない職員ほど不適格とされて他の部署に異動する確率が高くなるという事態が生じる。熱心で意欲のある職員であっても(一般職・行政職なら尚更)、ずっと同じ部署にいればモチベーションが下がり、疲弊することもある。熱心に働けば働くほど自分の意に反して異動の芽を摘み取られてしまえば、いつかはその意欲も喪失する。これはどの自治体の福祉事務所も抱えているジレンマである。

 

生活保護の現場で起きている様々な問題を安易な公務員バッシングで済ませては何も解決しない。

根本的な解決策はどのようなものなのか僕には分からない。

対症療法的になるけれども、専門職としてのケースワーカーの人員を増やすしかないように思う。学卒者の新卒採用に頼るのではなく、福祉関係の職歴を有する専門職を中途採用する。この中途採用もよく散見される低待遇の短期雇用の非正規職員ではなく、正職員に準じた待遇をもって採用する(5年や10年の中期の非正規雇用でもいいと思う)。

 

ここまで福祉事務所で働くケースワーカーがどのようなメンタリティを持っているか、それが個々のケースワーカーの働きぶりにどのような影響を与えるかに焦点を当てて述べてきた。

ただし、生活保護行政の現場が必ずしもうまく回らないのは、制度やシステムが破綻しかけているからであって、個々のケースワーカーの資質や働きぶりのみにその原因を求めてはならない。

現状のまま放置し、個々のケースワーカーの頑張りや意欲にもたれかかったままでいれば、近い将来に現行の制度は破綻する。