僕たちはいつ死ぬか分からない。
死亡リスクに備える必要がある人たちは何らかの対策をしておかなければならない。例えば家族がいて住宅ローンを抱えている人たちは、万が一の時のために残された家族の生活費やローンの清算のためのお金を用意しておく必要がある。
一方、寿命が延びたために結構な高齢まで生存する確率が高まっている。長寿は喜ばしいことである。しかしながら、長生きするということは、働けなくなってからの生活費がかかることを意味する。そのための備えはある程度は必要となってくる。一般的には公的年金と貯蓄が充てられる。
問題となるのは、仕事をリタイアした後に生計費がどのくらいかかるかということだ。
人によって生活レベルも異なるし、医療費や余暇に関する支出等も異なり、一概には言えない。月に10万円で足りる人もいれば30万円でも足りないという人もいるだろう。
金融や家計管理の専門家と称する人たちがメディアに出て、老後に必要な生活費についてよく述べている。僕が首を傾げるのは、大体高めの額を提示していることだ。ある専門家は余裕のある老後を過ごすためには月に35万円は必要だとの試算を出していた。これは一般的なサラリーマンに匹敵するか、あるいはそれ以上の額である。「どんだけ贅沢すんねん!」と一人突っ込んでしまった。
よくよく考えてみれば合点がいく。
ファイナンシャル・プランナーの多くは何らかの金融商品を販売しているという。FPは金融機関の手先だともいえる。生命保険会社や証券会社・銀行等の金融機関は老後の不安を煽り、金融商品を売り付けようとしているのだ。庶民のなけなしの蓄えを吐き出させようとしているのである。投資詐欺の被害も後を絶たない。詐欺ではないが、リスクのある商品を正しく説明しないで売り付けて、元本割れを起こしているケースは多い。銀行や証券会社は手数料を稼ぐためにリスクのある金融商品を売り、自身はリスクを負わない。これはモラル・ハザードである。
老後の不安を煽る自称「専門家」を信用してはならない。肩書きに騙されてはいけない。
老後の生活費として1億円が必要だと煽る「専門家」もいる。これは金融機関だけではなく、国家にとっても都合のよい言説なのだ。現役時代に死ぬほど働かせて、少しばかりの資産を築かせて、その資産を持つことを根拠として社会保障費を削りたいという魂胆がある。
老後の生活設計は、現在の収入・貯蓄・将来得られる予定の年金額を考慮して、身の丈にあったものにすれば何も問題はない。
不測の事態(病気等)に備えて、最低限の生命保険、例えば保険料が比較的安い掛け捨ての死亡保険や医療保険・ガン保険等に加入していれば事足りる。保険料が高額な終身保険・貯蓄的性質を有する保険は不要だと考える。予定利率が極端に低い今は何のメリットもないといえる。
住宅費は最も費用のかかるものだが、これも手ごろな広さ・価格の物件に買い替えるなり、公営住宅に転居するなりして費用を抑制できる。
社会保障の今後については予断を許さないとはしても、大枠では維持される(そうしないと国家が破綻する)と思うので、入院費については健康保険制度等と民間の保険で大体はカバーできる。今の医療制度では入院期間が短くなってきているので、入院費用がバカ高くなるケースは減っている。
老後の心配ばかりをして、仕事人間的に今を生きることは本当に幸せなのだろうか。
何とかなるだろう、とほんの少しでも良いから余裕を持ち、ある意味いい加減になることで、不安を払拭できると思う。