希望の舎―キボウノイエ―

漂泊を続ける民が綴るブログ。ちょっとナナメからの視点で語ります。これからの働き方・中世史・昭和前期の軍の組織論・労働問題・貧困問題・教育問題などに興味があるので、それらの話題が中心になります。

中小零細企業には人事制度・給与制度が無い件

僕が社会保険労務士をしていたときに力を入れていた業務は労働条件の整備・就業規則の作成そして人事制度や給与制度の構築である。

前者の仕事は結構依頼があった。労働条件、例えば有給休暇や労働時間、週休2日制の導入など問題を抱えた会社が多かったからだ。

一方、後者はそれほど依頼が無かった。社会保険労務士が関わる会社は従業員数50人未満の零細企業が大半であり、その規模の会社では一律に規定する人事制度構築の需要がなかったのである。

 

当時は中小企業にも人事・給与制度を導入しようとする動きがあった。大企業は職能給から成果・業績給へ移ろうとしていたが、中小企業ではようやく職能給を取り入れようとしていた。

しかし、現実は50人未満の会社では運用ができないことが多かった。新しい人事給与制度を作ってもすぐに取りやめるケースが多かったのである。

 

零細企業ではすべての従業員に対して社長の目が行き届く。実態は社長の一存で社員の給料が決まり、社員の評価が決まるのである。

社員の採用の際の初任給の決め方も適当であった。例えばハローワークの統計データを利用して同業種の同年齢層の給与額を参考にしていたりしていた。会社独自の基準があって無きようなものだった。

 

社長の一存で給料が決まるので、時として社長の好き嫌いで社員の評価が決まることになる。社長のお気に入りの社員は(仕事ができるできないに関わらず)、給料も上がるし役職に就いたりもする。仕事をしっかりこなしている社員であっても社長に気に入られなければ冷遇される。社員の出入りが激しい会社が多いのはこういったことが理由のひとつにある。

ただ、社長の一存で決まる人事や給与が一概に悪いとはいえない。要は社員がある程度納得できるかどうかである。大企業の立派な人事給与システムであっても多くの社員が納得できないようであれば、宝の持ち腐れとなってしまう。

 

僕は顧問先・関与先の会社に対しては無理に人事給与制度を作ることはないとサポートしていた。賞与をポイント制にするとか、退職金を外部積立(中退共を利用する等)にするなど一部分だけ手直しするケースが多かった。

僕はすべての社員が納得するような人事・給与制度など存在しないと考えていた。だったら、各々の会社の実情に沿ったものにした方が運用もスムーズにいくと考えて、理論を度外視していた。

 

中小零細企業の社長は殆どがオーナー経営である。会社への融資の連帯保証を社長の個人名義でしている場合も多い。つまり、会社が傾けば社長の全財産が吹き飛ぶこともありうるのである。

これだけのリスクを取っているのだから、社員の給料を自分で決めるくらいは許されるのではないかと思っていた。ただし、労基法をはじめとする法律を守ることが当然の前提である。

 

僕が関わった会社では、それぞれの社長は概ね公正に評価していたように思う。実際社員の心の奥底までは分からないが、表面上は納得していた感じだった。一部の会社を除いて、多くの会社では社員の出入りがそれほど頻繁ではなかった。

 

これから中小零細企業で働こうとする人は、特に大企業から転職しようとする人は、今まで述べたような中小零細企業の特質を見誤ってはならない。

評価がシンプルだというメリットもあれば、社長の胸先三寸だというデメリットもある。

 

組織に属して働いていると色々と理不尽なことに直面する。

その理不尽なこととどのように向き合うかは、その人次第だ。